すいか。
この三文字を呟くだけで、途端に夏が来る。
蝉の鳴き声、麦わら帽、遠雷、林間学校、砂浜・・・と、夏の風景がやってくる。
水夏。とでも名づけたい夏と直結した食べ物だが、飲食店で食べる機会は、以外に多くはない。和食料理店でのデザートか、甘味店で出くわすくらいである。
そこで今回は、わざわざ外で食べる、とびきりのすいかである。 とはいっても、すいか一切れが九百五十円は高い、その値段なら一玉は買えるぜと、思われる読者も多いだろう。
しかしここ高島屋の食料品売場にあるフルーツパーラー「レモン」の「すいか」は、すいかが違う。 「日照時間が味わいを左右するんです」と、熱く語る店長の森下重徳氏は、桜前線のように北上する各地の名産すいかを常に食べて、その日の産地を決めている。
三月頭の沖縄から始まって、熊本、鳥取と続き、この号が出るころは山形の尾花沢すいかが出されているはずだ。
長さ三十六センチもある楕円型のすいかは、冷蔵庫からうやうやしく取り出されて約十二分の一にカットされ、目の前に置かれる。 いかにも糖度が高そうな真っ赤な色合いと、ふわりと香る甘い匂いにつき動かされて、塩もふらずにかぶりつく。
シャリッ。軽快な音が響いて甘い果汁がほとばしる。フカフカな部分が一切なく、最後の一口までみずみずしい音が響く。
果汁が口から溢れ出すほどジューシーなのだが、果肉にハリがあるので、食べていてダラダラと皿に果汁がこぼれたりしない。
あくまで口の中だけで、シャリッ、パシュッと、夏が弾けるのである。
閉店
写真はイメージ